KK Interview vol.3 | カナダで日本人初のミシュランを獲得した Aburi Hana の料理長 (中川龍介)

2023.07.04 2023.07.05

Image

トロントで活躍する人たちにフォーカスしてインタビューを行う大人気企画!今回は、カナダで日本人初のミシュランひとつ星を獲得した Aburi Hana の料理長 中川龍介 (Ryusuke Nakagawa) さんに、文化の違いや言語の壁などミシュラン獲得までの苦労話や工夫したこと、また海外で活躍するための秘訣などたっぷりとインタビューしてきました。

日本語でインタビューに答えたのはこれが初めてとのことなので、KK独占公開です!普通じゃ絶対に聞けないようなことをたくさん話してくれているので、 今後海外で活躍したいと思っている人、新たに何か挑戦しようと思っている人は是非最後まで読んで、何かしら今後のヒントを得てもらえたら嬉しいなと思います!

YouTube でもインタビュー動画を公開しています!お店の雰囲気や料理に関しても動画を撮っているので必見です!

カナダで日本人初のミシュランひとつ星

ー この度はミシュランおめでとうございます!カナダ初めて開催されたミシュランで日本人初、それどころか「カナダのミシュラン史上初めて名前を呼ばれた人」だということを伺いました!その時の状況を是非色々お聞かせください!

ありがとうございます。って言うてももう去年 (2022年) の話なんですけどね (笑) 前からカナダにもミシュランが来ると言われてはいたんですけど、コロナの影響で先延ばしになってしまってたんですが、ようやく去年初のミシュランが開催されて、そこで大変光栄なことに、日本食レストランとしてひとつ星を獲得させていただきました。授賞式の会場で誰が呼ばれるかドキドキの中、まさかの一番最初に名前が呼ばれまして (笑) というのも、うちのレストランが Aburi Hana って言うんですけど呼ばれるのがアルファベット順だったみたいで…それで一発目に呼ばれてしまったんですよ。あまりの衝撃にその時は頭が真っ白になりました (笑) こればっかりは店名に感謝ですね!

BBCより引用

ー うわー!まさかの!! ”Ab” ですもんね (笑) ちなみにミシュラン獲得後の世間の反応はどうでしたか?こういうのってなかなか聞ける機会がないのですごく気になります (笑)

レストラン業界って色んなアワードがあったりするんですけど、ミシュランは基準が世界共通なので、アメリカだろうがフランスだろうが世界中の誰にでも通じる共通言語なんですよね。なので正直これまでのアワードとは違って段違いの反応でした (笑) 今でも鮮明に覚えてるんですけど、授賞式の時に名前が呼ばれてステージに上がるタイミングがあったんですが、名前が呼ばれたその瞬間からポケットに入れてたスマホがずっと鳴り続けていて、最初は友達や同僚からのお祝いのメッセージかなと思ってたんですが、後で確認してみたらほとんど予約の連絡で…(笑) その日だけで2ヶ月先まで予約が全部埋まりました (笑) 他にも、世界中の有名シェフからお祝いのDMが着ていたりして、それが一番嬉しかったかもしれません。

きっかけはカナダからの1通のDM

ー 凄すぎます…!まさに世界規模で認められた瞬間ですね。ここに至るまでのことをもう少し深ぼっていけたらと思うんですが、まずそもそもカナダに来られたきっかけは何だったんですか?日本にいた頃のお話しなども少しお話いただけると嬉しいです。

当時は「30歳で料理長になる」という目標を掲げて関西のレストランで働いてたんですが、ありがたいことに26歳の時に料理長になるという目標を達成しまして、そこで2年くらい料理長を務めていました。

レストランも軌道に乗る中、ふと「俺この後30代どうするんだ…?」という漠然とした疑問が浮かんできまして、「このまま同じことしていてもこの環境が続くだけだな」と思い、思い切って環境を変える為にインスタグラムで自分の料理を発信し始めたんですよ。当時は「インスタって何ですか?」くらいの感じだったんですけど、SNSを通じてもっと自分の料理を知ってもらおうと思って、1年間毎日発信するって目標を掲げて発信をスタートしました。

ー なるほど。掲げていた目標を何年も早く達成してしまったこと自体ものすごいことですが、さらにそこから止まることなく次のステージに進む為の行動力、めちゃめちゃ見習いたいです。それにしても、1年間毎日発信するってかなりハードル上げましたね!

頑張りました (笑) そんな中、徐々にフォロワーも増えてきて、東京や大阪の人から声をかけていただく機会も増え、「さて、どうしようかな」と思っていたところに、カナダから1通のDMが着たんですよ。でも、考えてみてください。大阪から連絡が来たら「おお、大阪から来た!」ってなりますけど、カナダから連絡が来たら「あ、詐欺か」ってなりません? (笑) なので2回ほど無視したんですけど、3回目のメールが来た時にあまりにしつこかったので友達にも相談して、一度ZOOMで話してみることにしたんですよ。そしたらちゃんと人がいまして…(笑) その際に「カナダに1回来てみないか」という提案を受け、もともと即決行動タイプだったので二つ返事で「あ、じゃ行きます」と答えてカナダに下見に行きました。

ー 異次元レベルの行動力にただただびっくりです (笑) 実際カナダの印象はどうでした?

まず思ったのが、当然ではあるんですが「めっちゃ英語じゃん...」でした (笑) ただ、そこで実際に1週間過ごしてみたところ正直すごく楽しくて、当時は目標迷子だったのもあり、なんとなーく直感で「あ、いけそうだな (やってみてもいいかもな)」って気がしたんですよね。当時連絡をくださった担当者からは、ミシュランを目指したいという話も聞いていて、色々とお互いの気持ちや理想の方向性なども話しあっていく中で、僕が覚悟を決めるきっけかの言葉をいただきまして…それが「ミシュランを取ってるシェフを呼びたいんじゃない。ミシュランを持ってないシェフと一緒に作りたいんだ」だったんですよ。漫画のような話ですよね (笑) それでカナダで挑戦する決断をしました。

日本とカナダの文化の違い

ー ここからは具体的に海外でシェフをする上で苦労したことや工夫したことなんかを聞かせていただければと思うのですが、文化の違いや言語の壁なんかはどうでしたか?

文化の違いはかなりありましたね。働き方の違いなんかはわかりやすい例かと思います。日本の料理長と言ったら腕を組んだ気難しい感じで、話しかけづらいみたいな印象を持つ方も多いと思うんですけど、カナダでは全然そうではなくて、もちろん営業中など引き締まる場面もよくありますが、それ以外の準備中などは「Heyyy!!」みたいな感じでノリ良く話かけてくることもあって、とにかくオンとオフのメリハリがすごいんですよね。当時は正直戸惑った部分もあったのですが、やっぱりそっちの方が楽しいですし、今ではそれが心地よく感じています。そういったメリハリから生まれるコミュニケーションが、仕事上でも 意見をしやすい環境” に繋がってたりもするんですよね。

ー 確かに、日本では上司と部下で距離感がある会社が多い印象ではありますね。僕もカナダで働いていて、そこは全く同じような印象を持っています。実際にスタッフから意見やアイディアが上がることも多いんですか?

めちゃめちゃありますよ。違う国で違う環境で育ったスタッフばかりなので、意見やアイディアが自分が持っているものとは全然違った角度のものだったりするのでおもしろいです。それに、日本食って外国の方からすると非常に独特な料理ってこともあって、よく料理に関する質問を受けるんですけど、改めて考えると自分でもわかってないこともあったりして、もはやその予期せぬ質問が自分の学びに繋がったりもしています。これまでは自分が常に教える立場だったんですが、いざ違うカルチャーに自分が飛び込んでみると、新たな日本食の切り口なんかも見えてきたりして、文化の違いに適応していくことが自分の成長にも繋がっているなとすごく実感しています。

「英語」という言語の壁

ー 日本にいたら絶対に気付けないようなことですよね。深いですね。英語に関しては実際どうですか?

英語に関しては率直に言うと、マジ舐めてました (笑) 「なんとかなるっしょ」と思って来たんですが、実際なんともならなかったです (笑) 料理って作り方とか食材とか料理に関する共通の言葉や知識がたくさんあるので、言わずもがななんとなくわかることがあったりするんですけど、やっぱり問題が起きた時とか、改善の為のミーティングをする時とか、より深いコミュニケーションを取りたい時にうまく自分の言いたいことが表現出来ない自分がいて、その時に「あ、俺このままじゃダメだな」って思いましたね。特に、相手の言いたいことを理解してあげられない時が一番心苦しかったです。

当然一瞬で自分の英語が成長することなんてないので、毎日地道に頑張っていくしかないんですが、もはやこの言語の問題に関しては、組織として働く以上自分一人の問題ではないので、この先も逃げずにきちんと向き合っていくことが大事だなと思っています。

食文化における日本と海外の距離感

ー 「自分一人の問題ではない」って本当に共感します。言語に関しては永遠の課題ですね。その他、何か苦労したことってありますか?

やっぱり日本と海外の食文化における距離感って思ってる以上に遠いなって実感しました。未だに海外では高い日本料理屋 = 寿司屋” っていう印象が根強かったりするんですよ。でも僕は寿司職人ではないので、ここにかなり葛藤があったりします。実はうちではあまり寿司メニューを取り入れていないのですが、実際過去に来客してくださったお客様で「え、なんで寿司出ないの?じゃあ帰るわ」と言われたことすらあります。それぐらいお寿司の印象は強いんですが (それは非常に良いことでもある)、ただそういった出来事に流されて寿司メニューを多くしてしまうと、それはそれでお寿司屋さんになってしまうんで、そこはやはり葛藤の連続でした。

ー 寿司の印象はやはり強いですね。想像の何倍も深い葛藤がありそうです…。物事をはっきりと言ってくれる環境だからこそ気付けることもたくさんあったんじゃないでしょうか?

ですね。日々お客さんから頂くフィードバックをもとに、カナダで受け入れてもらう為の工夫を取り入れながらメニューを構成するようにもなりました。その中でも「わかりやすさ」をすごく大事にしていて、例えば「出汁」って言われても日本人なら何も考えずに出汁がなんなのか思い浮かぶと思うんですけど、海外では「出汁」という言葉は浸透していないのでその言葉を当たり前のように使えないんですよ。なので、基本僕が考えるメニューには 誰もがわかるもの” 説明が必要なもの” を程よく混ぜていたりしています。これが結構大事だったりすんですよ。

Aburi Hana の料理へのこだわり

ー 環境に適応しつつも、自分の強みや日本の良さをきちんと取り入れていくあたり、もはや常人技ではないですね (笑) Aburi Hana の料理に関してもう少し詳しく伺っても良いでしょうか?

まずひとつこれが華の看板料理ですよ」っていう自分のシグネチャー料理を作りたくて考えたのがこのマグロを使った料理なんです (下の写真) 。マグロって誰でもわかるかつ、日本を感じられるベストな食材なんですよね。
日本の魚ってやっぱり美味しいし、「日本食なんだから日本の魚使うのは当然でしょ」っていう意見を持つ方も多いんですけど、個人的にはそれが必ずしも正しいとは思っていなくて、僕は「せっかくカナダでやってるのにカナダの食材を使わないってちょっと違くない?」って思ってるんですよね。ミシュラン獲得して、世界中からお客さんが来るようになったので、せっかくなら “トロントでしか食べられない日本食” を提供したいんですよ。なので今はチャレンジとして、オンタリオ湖 (トロントにある五大湖のひとつ) の魚を使ってみたりしています。

正直、最高級の日本の懐石料理は、日本の東京や京都で食べてもらうのが当然ベストで、それをここカナダで表現する必要はないと思ってるんですよね。華を通じて「懐石料理って美味しいんだ」ってことに気付いてもらうことが僕の役目で、それがきっかけで最終的に日本で本格懐石料理を食べてもらえたら僕としても嬉しい限りです。

ー まさに日本の食文化を背負ってますね。それにしてもこのシグネチャー料理、美味しいのはもちろんのこと、ドライアイスを使った演出があったり、見た目も綺麗にデザインされていたりして、もはやアートの領域ですね。

そう言われると嬉しいです(笑) この料理は ”世界中の人が好きな日本食” をテーマにしています。演出で使用している水には檜の香りを含めていたり、お皿も日本の工房から直接購入してきた有田焼を使用していたり、とにかく味覚に限らず、視覚や嗅覚など五感で日本を体験してもらえるように心がけています。2ヶ月に一度メニューを変更しているのですが、このような一品を13皿用意し、ひとつのコースメニューとして提供させていただいています。

ミシュラン獲得した今だから想う今後の展望

ー 「美味しい」だけに留まらず、体験を通して日本食を楽しんでもらいたいという気持ちがものすごく伝わってきます。こういった洗練された細かな配慮や工夫が Aburi Hana を成功に導いているんだなと心から感じました。そして、ミシュランを獲得した今、ひとつの目標をまた達成して、環境も変わりつつあるかと思いますが、次に挑戦したいことなど今後の展望をお聞かせいただけますでしょうか?

ありがとうございます。はい、2つほどありまして、ひとつが ”いろんなシェフとのコラボ” です。レストラン業界では他のシェフやレストランとコラボをすることはよくあるんですが、ミシュラン獲得後はさらに影響力や認知度も高まり、ありがたいことにこれまであまり縁のなかったシェフの方々からもご連絡をいただくようになったので、今後は日本食に限らずいろんなジャンルのシェフとコラボをして、さらに日本食の良さを広めていきつつ、自分自身もっともっと料理を磨いていけたらなと思っています。

ー コラボ良いですね!可能性がまたどんどん広がっていきそうですね。もうひとつの方は…?

もうひとつが、先ほども少し触れさせていただいた通り、もっと地元のオンタリオ、トロントの食材にフォーカスしていきたいと思っています。一般的に気付かれていないようなポテンシャルの高い食材などが地元にまだまだ埋まっているはずで、それを自らの足で調達し、調理することで、これまで価値が無かったものに価値を与えらるようになると思うんですよね。それは影響力が増した今の自分だからこそ挑戦出来ることだと思っています。この2つですかね。

海外で挑戦している、しようとしている人へアドバイス

ー 自分のレストランの域を超えて、トロントを盛り上げようとしている姿勢にはもう頭が上がりません!ここまででも十分有料級のお話をいただいているとは思うのですが、最後に今後海外で挑戦しようとしている人、また実際に今奮闘中の人に向けて何かアドバイスをいただけたら嬉しいです!

そうですね。まず、海外って良くも悪くも全て自分次第なんですよ。出る杭は打たれるわけではなく、みんな平等に見てくれるのでチャレンジする環境としては整ってると思うんですよね。だからこそ料理の基礎にせよ何にせよ ”きちんと準備をしてから飛び立つ” っていうのが大事かなと思います。日本って何十年も下積みをして…っていうのがあったりすると思うんですけど、海外ではそういった努力や辛抱強さが評価されるってことはあまりなく、兎にも角にも結果が全てなので、だからこそそこに向けてキチンと準備をしておけば誰にでも可能性があると思うんですよね。

もうひとつが、 “自分から発信すること” ですかね。話戻りますが、ここに至るまでの全ての始まりはインスタで自分の料理を発信し始めたことがきっかけであって、結局自分から発信しない限りどんなに実力がある方でも見つけてもらえないんですよね。結果を出す努力ももちろん大事だと思うんですけど、それ以前に「自分がチャレンジしてますよ」って声を大きくして言うってことがすごい大事かなって思います。発信してから気付くこともたくさんありますしね。

ー 僕もこのようなSNSの活動を行っていて「自分で発信することの大切さ」には共感しかないです。準備が大事ということもおっしゃられてましたが、Ryusuke さんの場合、料理長になるという目標を達成して、インスタグラムで発信をスタートし、実際にカナダに下見に行ってなど、結局何年もかけてものすごい準備をしていたってことになりますもんね。

間違いないですね (笑) それに、やっぱり日本人にはもっと活躍してほしいなと思います。正直海外で活躍してる日本人ってまだまだ少ないじゃないですか?でも今回のこの記事や YouTube の撮影もそうですけど、もっとこうやって海外で奮闘している人同士何かしらの形で関わって、支え合っていきたいですよね。なので個人的にはこの記事をきっかけにもっと海外でチャレンジする人が増えたら嬉しいなと思います。一緒に盛り上げていきましょう!!

ー 本当にそう思います!一緒にカナダを盛り上げていきましょう!!今日は貴重なお話ありがとうございました!!

店名Aburi Hana
住所102 Yorkville Ave, Unit 4 Lower Level, Toronto, ON M5R 1B9
ホームページhttps://www.aburihana.com/
Instagram (Aburi Hana)https://www.instagram.com/hanayorkville
Instagram (Ryusuke Nakagawa)https://www.instagram.com/ryusuke_nakagawa/

記事をシェアして友達にアウトプットしよう

Image

この記事を書いた人

Kazuki

英語を使って世界中の人と、遊びも仕事も楽しみたいと思いトロントに留学を決意。たくさんの仲間たちに囲まれて日々ネイティブに近づくべく奮闘中!「英語学習の楽しさ」や「トロントの魅力」を自ら伝える為に KK Talking の運営をスタート!ネイティブから学んだことをシェアしています。アニメ、ゲーム大好きのオタク属性。甘いものに目がない。

記事一覧へ




記事を検索

holafly-esim

人気の記事

最近の記事

YouTube

Instagram